本の紹介

『ザ・ママの研究』:ママの「対象化」をはじめよう

ザ・ママの研究

 『ザ・ママの研究』はカウンセラーである信田さよ子さんによって書かれた、子どもがママと新たな関係性を模索するための方法を伝える本です。

 この本は読書に向けて、ママとうまく付き合っていくためにママを「研究」しようと呼びかけます。

 「研究」するには、その研究対象(ママ)から少し距離を取って観察すること(=対象化)が必要です。その具体的なやり方や心がまえ、考え方などについて、「ママのタイプ分け」や「不思議リスト」などユニークな手段を交えつつ解説しています。

びっくりするかもしれないが、世の中の多くの人たちは、ママを「対象化」などしてはいけないと考えている。ママは特別な存在だと考えているひとは驚くほど多い。 しかしこのことこそが、娘であるあなたたちにとって、ときにはつらく苦しい影響を与えてしまうのだ。

「ザ・ママの研究」(イースト・プレス)

 

 いいかえれば、この本は身近な母親を「対象化」して「研究する」という視点を持ち込むことで、閉塞的な関係に陥りがちな母娘関係に対して子どもが心理的な距離をとることができるようにしているといえるでしょう。

 著者の信田さよ子さんは心理カウンセラーの草分け的な存在であり、90年代に私設のカウンセリングセンターを設立されて以来第一線で活躍されてきた方です。アダルトチルドレンや母娘問題、家族問題、DV、依存、被害者支援など多くの領域に関する書籍を出版されており、お名前を知っている方も多いと思われます。

 「ザ・ママの研究」は、子どもが読みやすいようにカラフルな文字やイラストがふんだんに使われているため非常にポップな印象ですが、長年、家族問題を見つめそれらを言葉にしてきた信田さよ子さんならではの、母子関係の本質に迫る言葉が随所に織り込まれています。

 でも、よく考えてみてほしい。「私のせいだ」、という理由で説明のつかないことなどない。すべてが同じ理由から生じるなんて、そんなものは理由にも説明にもなっていない。たとえば、交通事故に遭ったとき「運が悪かった」から、という理由や説明がまったく意味がないのと同じことだ。

 だから、私が悪い子だから、という理由だけはやめることにしよう。いくらあなたが「悪い子」だったとしても、それは、わけのわからない態度をとったママに責任がある。

「ザ・ママの研究」(イースト・プレス)

 ママを批判的に見ること、ママを否定すること、もっといえばママを捨てたいと思うこと。これらは、いくら心の中でその思いにとらわれたとしても、絶対口にしてはならなかった。それから長い時間が経った今でも、ママについての常識はそれほど変わっていない。

<中略>

 この本は、そんな常識に少しだけ抵抗するために書いた。

「ザ・ママの研究」(イースト・プレス)

 ママだけの世界から一歩踏み出すことで、あなたの世界が始まる。こうして、あなたは自分の人生のスタートラインに立つことになる。

「ザ・ママの研究」(イースト・プレス)

 「ザ・ママの研究」はママに疑問を持ち始めた思春期・青年期の女子たちのみならず、母親との関係について再検討するきっかけがほしい大人の女性にも役立つ1冊でしょう。

 増補版にはふろくとして「ザ・パパの研究」も載っており、増補新版には「ばぁばの研究」も書かれているようです。ママだけではなくパパやばぁば(じぃじも?)も含め、すでに「研究」される側である「親の立場」となったすべての大人たちにもぜひ読んでほしい一冊です。

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中野カウンセリングオフィス
東京都中野区にあるカウンセリングオフィスです。臨床心理士、公認心理師。著者の詳しいプロフィール、カウンセリングサービスについては下記サイトをご覧ください。