カウンセラー

カウンセラーの職業倫理にまつわる問題:安心してカウンセリングを受けるために

カウンセラーから個人的な連絡先を渡されて、連絡するように言われた

カウンセラーとカウンセリング以外の場で会うことになった

カウンセラーがカウンセリングの様子をこっそり録音しているみたい

 上記のようなことが起こった場合、「このカウンセラーの言動は問題なのでは?」と疑問を抱くことと思います。これらはカウンセラーの職業倫理にまつわる問題です。

 カウンセリングを受けるにあたって、カウンセラーの職業倫理がどのようなものであるかを理解しておくことは重要です。

 本来であれば来談される方がこのようなことを気にせずにカウンセリングを受けられるのが一番です。しかし、万が一カウンセラーが職業倫理を逸脱するような言動をとった際、すぐに気づくことができればご自身の身を守ることに繋がります。

 わたしは臨床心理士、公認心理師の資格をもち15年以上仕事をしてくるなかで、直接ではありませんが倫理違反の事例について見聞きしてきました。そういった危機意識もありこの記事を書きました。

 この記事では、カウンセリングにおける倫理問題とは何か、万が一、倫理問題に遭遇した場合どうすればいいのか、防衛策はあるのかなどについて説明します。この記事を参照することで、安心してカウンセリングを受ける準備を整えてください。

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職業倫理とは何か:倫理綱領と倫理委員会

職業倫理の定義

 職業倫理の定義は次の通りとなります。

ある職業に属する人たちが自分たちで定める「その職業における行動規範」

 つまり、職業にまつわる「やってはいけないこと」「やった方が望ましいこと」という基準です。

 職業倫理は、職権の濫用による利用者の搾取を防止するためのものです。しかし、あくまで「規範」であり法律のような強制力はないということに注意が必要です。国家資格のように法律によって定められた義務や罰則がある場合のみ、法的な強制力をもちます。

倫理綱領と倫理委員会

 ある職業の職業倫理がどのようなものであるかは、具体的には、各職能団体などが設ける「倫理綱領」によって定められます。そしてそれがきちんと実行されているかどうかをチェックし違反があった場合の対応を行う役割を「倫理委員会」が担います。

倫理綱領:職業倫理について具体的な行動や指針などを定める文書

倫理委員会:倫理違反が報告された場合、それを調査し、倫理違反をした人に対して定められた措置をとる委員会のこと

 倫理委員会の措置にはさまざまなものがあります。処置の決定過程や詳細などは「倫理規程」によって定められていることが多いです。

カウンセラーの職業倫理

 実は、カウンセラー全体を対象とした職業倫理を定める規範は日本にはありません。

 カウンセラーの資格ごとにその資格認定団体や職能団体が各自で職業倫理を定めているのが現状です。ただ、カウンセラーの資格は膨大な数があり、中には職業倫理を定めていない資格団体もあります。

 カウンセラー資格の種類については下記記事も参考にしてください。

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 以下に、どのような団体が倫理を定めているのか、代表的なものを記載します。

資格認定協会

 カウンセラーの民間資格として実績のある臨床心理士の場合、資格認定をしている「日本臨床心理士資格認定協会」「倫理綱領」を作成しています。

職能団体

臨床心理士

 臨床心理士の職能集団である「一般社団法人日本臨床心理士会」「倫理綱領」を作成しています。こちらの「倫理綱領」は資格認定協会のものよりも詳細です。

公認心理師

 心理支援の初の国家資格である公認心理師には職能団体が2つ存在しています。そのうち、「一般社団法人日本公認心理師協会」「倫理綱領」「個人情報保護規程」を作成しています。

 もう1つの職能団体である「一般社団法人公認心理師の会」は倫理委員会に該当するものはあっても「倫理綱領」は作成していないようでした。

学術団体

 以下のような学術団体でも「倫理綱領」が作成されています。

カウンセラーによる倫理問題の実際

 では、実際にどのような行為が倫理問題となるのでしょうか。臨床心理士の資格認定を行っている日本臨床心理士資格認定協会の「倫理綱領」を例に解説します。

秘密保持

臨床業務従事中に知り得た事項に関しては、専門家としての判断のもとに必要と認めた以外の内容を他に漏らしてはならない。

http://www.jsccp.jp/about/pdf/sta_5_rinrikoryo0904.pdf「臨床心理士倫理綱領」

 クライエントの個人情報や相談内容に対する秘密保持が定められています。守秘義務といった表現をされる場合もあります。

 カウンセリングでは、クライエントの基本的な個人情報だけではなく、普段は人に言わないような個人的な事柄が開示されます。カウンセラーがこの「秘密保持」を前提としていないと、クライエントは安心して話をすることができません。

 この「秘密保持」には以下のようなことも含まれています。

  • 個人情報や相談内容が漏洩しないように情報管理をする
  • 面接場面の録音・録画はクライエントの了承を得てから行う
  • 事例や研究の公表に際しては来談者の秘密を保護する

 「秘密保持」にも例外があります。それは「専門家としての判断のもとに必要と認めた」際には情報を開示することが認められるということです。例えば、自他に対する生命の危険がある場合や児童虐待の疑いがある場合などがあげられます。

多重関係

臨床心理士は自らの影響力や私的欲求を常に自覚し、来談者の信頼感や依存心を不当に利用しないように留意しなければならない。その臨床業務は職業的関係のなかでのみこれを行い、来談者又は関係者との間に私的関係及び多重関係をもってはならない。

http://www.jsccp.jp/about/pdf/sta_5_rinrikoryo0904.pdf「臨床心理士倫理綱領」

 

 カウンセラーがクライエントとの間で「専門家としての関係」以外の関係をもつことを「多重関係」と言います。例えば「カウンセラー-クライエント」という関係でありながら、「職場の上司-部下」「親族」「友人」「恋人」でもあるというような状態です。

 このような「多重関係」をクライエントとの間でもってはならないことが定められています。

業務への責任と技術の研鑽

 専門的業務への責任や、専門的知識や技術の研鑽努力についても定められています。

臨床心理士は自らの専門的業務の及ぼす結果に責任をもたなければならない。

http://www.jsccp.jp/about/pdf/sta_5_rinrikoryo0904.pdf「臨床心理士倫理綱領」

常にその知識と技術を研鑽し、高度の技能水準を保つように努めなければならない。一方、自らの能力と技術の限界についても十分にわきまえておかなくてはならない。

http://www.jsccp.jp/about/pdf/sta_5_rinrikoryo0904.pdf「臨床心理士倫理綱領」

 後者の研鑽努力については、臨床心理士の場合は5年ごとの資格更新があり、更新をするには一定の研鑽を行うことが定められています。研鑽の義務を資格制度に組み込むことで保証しようとしているのでしょう。

専門的知識や意見の公開

 臨床心理士が専門的な知識やそれらに基づいた意見を公表する際、誇張がないようにするべきであるとも定められています。

心理学的知識や専門的意見を公開する場合には、公開内容について誇張がないようにし、公正を期さなければならない。特に商業的な宣伝や広告の場合には、その社会的影響について責任がもてるものでなければならない。

http://www.jsccp.jp/about/pdf/sta_5_rinrikoryo0904.pdf「臨床心理士倫理綱領」

 特に、後半の「商業的な宣伝や広告の場合」という点は大事なポイントです。

 臨床心理士がカウンセリングの効果などについて「治る」「良くなる」など明言した表現をすることが少なくやや曖昧な物言いになりがちなのは、こういった倫理的視点が背後にあるといえます。

 カウンセリングで実際に「良くなる」人が多くいるのは事実ですが、残念ながら、厳密には全ての人が「良くなる」わけではないこともまた事実です。こういった事実にもとづくと、「カウンセリングをすれば良くなります」と言い切ることは誇張となってしまうでしょう。

 非常に些細な言葉づかいの問題と思う方もいるかと思いますが、こういった細部にこそ倫理意識は現れるのではないかとも思います。

その他

 その他には、他の専門職との関係研究に際しての倫理事項が定められています。

倫理違反に対する処遇

 倫理違反があった場合にはどのような措置が取られるのでしょうか。

臨床心理士の場合

 臨床心理士の場合、日本臨床心理士会と日本臨床心理士資格認定協会では倫理違反への処遇が若干異なります。

  • 日本臨床心理士資格認定協会…「厳重注意」「一定期間の登録停止」「登録抹消」「不
    問」
  • 日本臨床心理士会…「厳重注意」「教育・研修の義務づけ」「一定期間内の会員活動の停止」「退会勧告及び除名」

 日本臨床心理士資格認定協会による倫理問題への対応には資格の取り消しが含まれます。また、処遇内容を臨床心理士報やホームページに公示する公示すると共に、必要に応じて関係機関に通報することも含まれます。

 加えて、「厳重注意」「一定期間の登録停止」の処分の場合には倫理意識向上のためのスーパーヴィジョンを受ける等の附帯事項を加えることもできます。

 職能団体である臨床心理士会よりも厳しい内容と思われますが、それは日本臨床心理士資格認定協会が資格を認定するという重大な責務を負った団体だからこその処遇なのでしょう。

 一方、日本臨床心理士会の場合、「退会」「除名」は、日本臨床心理士会といった職能団体の「退会」「除名」であり資格そのものの取り消しではないことに留意が必要です。

公認心理師

 国家資格である公認心理師において倫理問題への処遇はどのようになっているのでしょうか。

 公認心理師は国家資格であるため、法律によってその資格をもっているひとが負うべき義務とそれを破った場合の罰則が定められています。

 その中には、倫理問題と重なる項目もあります。例えば以下のような項目です。

  • 秘密保持の義務:違反した場合は、1年以下の懲役、30万以下の罰金、資格登録の取り消し
  • 信用失墜行為(信用を傷つけるような行為)の禁止:違反した場合は、資格登録の取り消し

 これらは法律であるため、法的な強制力を持ちます

 しかし、2点目の「信用失墜行為」は実際にどのような行為のことを指すのか、具体的な基準があるわけではありません。その都度、その行為の内容や程度をみて職種全体の信用という視点から判断するものとされています。

余談:臨床心理士の倫理問題の現状について

 少し余談となりますが、日本臨床心理士資格認定協会は2020年5月28日に「倫理綱領」を一部改正し、新たに「倫理規程」を制定しています。

この改正と制定についての説明文に以下のような箇所がありました。

本協会に組織されている倫理委員会の実際対応や審議を踏まえた臨床心理士の昨今の実態には、専門義務(倫理・知識・研修・交流)の自覚や態度の備えに乏しく、また高度専門職業人以前の課題性を否定することが難しい案件とともに、申し立て内容や処分等の結果の自覚や円滑な受諾に委員会対応が困難な案件の発生傾向の重大性が指摘されています。

「臨床心理士の皆様へ―新しい倫理関連規程の確認と遵守をお願いします―」http://fjcbcp.or.jp/2020_0731a/

 つまり、専門家としての義務の自覚に乏しいケースや、それ以前の課題があるケース、また、処分結果を自覚し受け入れることが難しいケースが多いということです。

 こういった問題意識が反映されたものと思われますが、「倫理綱領」に新しく加えられた内容は<倫理申立て及び処分への対応義務>と題されており、以下のような内容となっています。

  • 倫理問題があると倫理委員に通報があった場合、倫理委員会の調査に協力すること
  • 養成大学院の指導教員である場合/職能団体に所属している場合は、大学院および諸機能団体にその旨を報告すること
  • 「一定期間の登録停止」「登録の抹消」の処分の場合は、資格の証明書・認定書を返納すること

 このような改正と制定にいたった経緯には憂うべきものがありますが、資格認定協会が現状に即して倫理問題に適切な対処をしようとしている姿勢がうかがえます。

カウンセラーとの間で倫理問題が生じたらどこに相談すればいいか

 もしカウンセリングを受けているなかで「これって倫理問題では?」と思った場合、どこに相談すればいいのでしょうか。

 当のカウンセラーに直接疑問を伝えて解決することが出来れば一番よいのですが、そういったことも難しい場合はどのような選択肢があるのか、いくつか挙げてみたいと思います。

病院・福祉施設や教育機関などで行われているカウンセリングであれば、そのカウンセラーの上司や責任者にあたる人物、もしくは相談窓口に相談する。

カウンセラーの持っている資格や所属している学術団体が分かっている場合は、その資格の職能団体や所属している学術団体に倫理委員会があるかどうかを確認し、そこに相談する。

信頼できる第三者、もしくは他のカウンセラーに相談する。

 「カウンセラー-クライエント」という関係は、どうしてもクライエント側に「カウンセラーの言っていることは正しいのだろう」という気持ちが生じやすいため、実際に倫理問題がおきていてもそれを認識することが難しくなってしまうケースがあります。

 「おかしいな?」と感じた時には1人で抱え込まず、上記のような方法でまずは誰かに相談することをお勧めします。

カウンセリングにおける倫理問題を防ぐためには

 実際に問題が生じる前に倫理問題を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。倫理問題を防ぐという観点から、カウンセラーを選ぶ際に考慮すべき点を挙げてみます。

1.カウンセラーが資格をもっているかどうか、また、その資格や職能団体に「倫理綱領」や「倫理委員会」があるか確認する

 カウンセラーは資格がなくても誰でも名乗ることができます。実際、資格がなくてもクライエントに誠実かつ有能なカウンセラーもたくさんいます。

 しかし、万が一倫理問題が生じた場合「倫理委員会」があればそこに相談することができます。そのためにも上記の点は押さえておきたいポイントです。

 カウンセラーの資格については以下の記事も参考にして頂ければと思います。

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2.カウンセリングに関する契約書や取り決め書、同意書などがあるかを確認する

 契約書などによって倫理問題のすべてをカバーできるわけではありません。

 しかし、契約内容についてきちんと文書で説明し同意をえようというインフォームドコンセントの意識があるかどうかは、カウンセラーを選ぶ際のポイントになると思われます。

 契約書には秘密保持にまつわる取り決めが記載されているかどうかも確認しましょう。

3.ホームページがある場合は、プライバシーポリシーがあるか確認する

 プライバシーポリシーも個人情報の取り扱いに関する規範であり、倫理問題全てをカバーできるものではありません。

 しかし、情報の取り扱いについての最低限のラインを意識しているかどうかという点は倫理についての意識を持っているかどうかの目安にはなると思われます。

 カウンセラー選びの際には以下の記事も参考にしてください。

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まとめ

 カウンラーの職業倫理にまつわる問題について、職業倫理とは何か、倫理問題にはどのようなものがあるのか、また、実際に倫理問題がおこった場合や倫理問題を防ぐためにはどうすればいいのかについて説明しました。皆さんが安心してカウンセリングを受けるための参考にして頂ければ幸いです。

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中野カウンセリングオフィス
東京都中野区にあるカウンセリングオフィスです。臨床心理士、公認心理師。著者の詳しいプロフィール、カウンセリングサービスについては下記サイトをご覧ください。