カウンセラー

カウンセラーの職業倫理にまつわる問題:安心してカウンセリングを受けるために

 カウンセリングというのは他の人には話せないような悩みについて話す場です。そのため、カウンセラーとの間に安心できる信頼関係があることが欠かせません。

 しかし、カウンセラーがそういった信頼関係が損なう言動をし、クライエントが傷ついてしまうという問題が生じることがあります。

 例えば、

カウンセリングの内容について許可もなく第三者に話されてしまった

個人的な付き合いもしくは性的な関係に持ち込もうとされた(持ち込まれた)

カウンセリングの様子を知らない間に録音・録画されていた

 これらはカウンセラーの職業倫理にまつわる問題です。

 この記事では、カウンセリングにおける倫理問題とは何か、万が一、倫理問題に遭遇した場合どうすればいいのか、防衛策はあるのかなどについて説明したいと思います。

職業倫理とは何か:倫理綱領と倫理委員会

 職業倫理とは、ある職業に属する人たちが自分たちで定める「その職業における行動規範」のことをいいます。職能団体や学術団体などによって「倫理綱領」として定められていることが一般的です。

 多くの場合、「倫理綱領」を作成した団体には倫理委員会と呼ばれるものが設置されています。

 倫理委員会は、「倫理綱領」に反する行為があったと報告をうけて、それを調査し、倫理違反をした人に対して定められた措置をとります。例えば、臨床心理士資格認定協会の場合「厳重注意、一定期間の登録停止、登録の抹消等」の措置があります。

 注意すべきなのは、あくまで「規範」であるため、法律のような強制力はないということです。国家資格のように法律によって定められた義務や罰則がある場合のみ、法的な強制力をもちます。

カウンセラー資格の倫理綱領にはどのようなものがあるのか

 例えば、カウンセラーの民間資格として実績のある臨床心理士の場合、資格認定をしている日本臨床心理士資格認定協会が「倫理綱領」を作成しています。

 また、職能集団である一般社団法人日本臨床心理士会も「倫理綱領」を作成しています。こちらの「倫理綱領」は資格認定協会の「倫理綱領」よりも詳細です。

 心理支援の初の国家資格である公認心理師は職能団体が2つ存在しています。そのうち、一般社団法人日本公認心理師協会は「倫理綱領」や個人情報保護規程を作成しています。一般社団法人公認心理師の会は倫理委員会に該当するものはあっても「倫理綱領」は作成していないようでした。

https://www.jacpp.or.jp/association/rule.html

 以下のような学術団体でも「倫理綱領」が作成されています。

カウンセラーによる倫理問題の例

 実際には、職業倫理としてどのようなことが定められており、どのような行為が倫理問題になるのでしょうか。また、倫理違反があった場合、どのような措置が取られるのでしょうか。

臨床心理士

 一般社団法人日本臨床心理士会の「倫理綱領」を例にどのような倫理問題があるのかをいくつか見ていきたいと思います。

秘密保持

業務上知り得た対象者及び関係者の個人情報及び相談内容については,その内容が自他に危害を加える恐れがある場合又は法による定めがある場合を除き,守秘義務を第一とすること。

http://www.jsccp.jp/about/pdf/sta_5_rinrikoryo0904.pdf「一般社団法人日本臨床心理士会 倫理規程」

 クライエントから聞いた話は、例外(その方や他人に生命の危険がある場合・虐待の疑いがある場合など)を除いて、その秘密は保持されることが定められています。

 そのため、カウンセラーが確たる理由なくクライエントから聞いた話を第三者に漏らすようなことがあった場合、それは倫理問題であると言えます。

 この秘密保持にまつわる倫理としては、情報が漏洩しないように情報管理をすることや、面接場面の録音・録画はクライエントの了承を得てから行うことなども含まれています。

対象者との関係

会員は,原則として,対象者との間で,「対象者-専門家」という専門的契約関係以外の関係を持ってはならない。

http://www.jsccp.jp/about/pdf/sta_5_rinrikoryo0904.pdf「一般社団法人日本臨床心理士会 倫理規程」

 カウンセラーがクライエントとの間に、専門家としての役割以外の役割ももつことを「多重関係」と呼ばれ禁止されています。例えば「カウンセラー-クライエント」という関係だけでなく、「職場の上司-部下」「親族」「友人」「恋人」などといった他の関係でもあるという状態です。

 これは、同時進行でなく、その関係の時期が重なっていない場合でも「多重関係」に含まれます。ですので、カウンセリングが終わった後に、カウンセラーとクライエントが何らかの個人的な関係になるといったことも「多重関係」に含まれます。

 カウンセリング中/終了した後で、カウンセラーがクライエントと何らかの個人的関係としての繋がりを持とうすること・実際に持つことは倫理違反です。また、クライエントとの間に個人的な関係があるにもかかわらずカウンセリングを引き受けることも倫理違反です

 その他、インフォームド・コンセントや職業資質の向上に努めることなども倫理に含まれていますが、倫理問題として実際に問題となりやすいのは上記の二点なのではないかと思われます。

倫理問題に対する処遇

 倫理違反をした会員に対する処遇としては、厳重注意、教育・研修の義務づけ、一定期間内の会員活動の停止、退会勧告及び除名があります。ただし、これは一般社団法人日本臨床心理士会という職能団体の「会員活動の停止」「退会」「除名」であり、臨床業務自体の停止や、資格そのものの取り消しではありません。

 一方、日本臨床心理士資格認定協会による倫理問題への対応には資格の取り消しが含まれます。

倫理綱領にもとる行為があった場合、倫理委員会の審査により厳重注意、一定期間の登録停止、登録の抹消等の措置がなされることになっています。

http://fjcbcp.or.jp/rinshou/rinri/「臨床心理士の職業倫理」公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会

 これは、日本臨床心理士資格認定協会が資格認定をおこなっている団体だからこそ可能な措置なのだと思われます。

公認心理師

 では、国家資格である公認心理師における倫理問題はどのようになっているのでしょうか。

 公認心理師は国家資格であるため、法律によってその資格をもっているひとが負うべき義務と、それを破った場合の罰則が定められています。

 その中には、倫理問題と重なる項目もあります。例えば以下のような項目です。

  • 秘密保持の義務:違反した場合は、1年以下の懲役、30万以下の罰金、資格登録の取り消し
  • 信用失墜行為(信用を傷つけるような行為)の禁止:違反した場合は、資格登録の取り消し

 これらは法律であるため、法的な強制力を持ちます。しかし、2点目の「信用失墜行為」は、実際にどのような行為のことを指すのか、具体的な基準があるわけではありません。その都度、その行為の内容や程度をみて、職種全体の信用という視点から判断するものとされています。

カウンセラーとの間で倫理問題が生じたらどこに相談すればいいか

 もし、カウンセリングを受けている過程のなかで、実際に倫理問題が生じた場合、どこに相談すればいいのでしょうか。当のカウンセラーに直接疑問を伝えて解決することが出来れば一番よいのですが、そういったことも難しい場合はどのような選択肢があるのか、いくつか挙げてみたいと思います。

病院・福祉施設や教育機関などで行われているカウンセリングであれば、そのカウンセラーの上司や責任者にあたる人物、もしくは相談窓口に相談する。

カウンセラーの持っている資格や所属している学術団体が分かっている場合は、その資格の職能団体や所属している学術団体に倫理委員会があるかどうかを確認し、そこに相談する。

信頼できる第三者、もしくは他のカウンセラーに相談する。

 「カウンセラー-クライエント」という関係は、どうしてもクライエント側に「カウンセラーの言っていることは正しいのだろう」という気持ちが生じやすいため、実際に倫理問題がおきていてもそれを認識することが難しくなってしまうケースがあります。

 「おかしいな?」と感じた時には1人で抱え込まず、上記のような方法でまずは誰かに相談することをお勧めします。

カウンセリングにおける倫理問題を防ぐためには

 実際に問題が生じる前に、倫理問題を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。倫理問題を防ぐという観点から、カウンセラーを選ぶ際に考慮すべき点を挙げてみます。

カウンセラーを選ぶ際に、そのカウンセラーが資格をもっているかどうか、また、その資格や職能団体に「倫理綱領」や倫理委員会があるかどうかを確認する

 カウンセラーは現状、資格がなくても誰でも名乗ることができます。資格がなくてもクライエントに誠実かつ有能なカウンセラーもたくさんいます。しかし、万が一倫理問題が生じた場合のことを考えると、有資格者であるかどうかは押さえておきたいポイントです。

カウンセリングに関する契約書や取り決め書、同意書などがあるかを確認する

 契約書などによって倫理問題のすべてをカバーできるわけではありません。しかし、契約内容についてきちんと文書で説明し同意をえようというインフォームドコンセントの意識があるかどうかは、カウンセラーを選ぶ際のポイントになると思われます。契約書などには秘密保持にまつわる取り決めについても記載されていることが一般的です。

ホームページがある場合は、プライバシーポリシーがあるか確認する

 プライバシーポリシーも個人情報の取り扱いに関する規範であり、倫理問題全てをカバーできるものではありませんが、情報の取り扱いについての最低限のラインを意識しているかどうかという点は倫理についての意識を持っているかどうかの目安にはなると思われます。

まとめ

 カウンラーの職業倫理にまつわる問題について、職業倫理とは何か、倫理問題にはどのようなものがあるのか、また、実際に倫理問題がおこった場合や倫理問題を防ぐためにはどうすればいいのかについて説明しました。皆さんが安心してカウンセリングを受けるための参考にして頂ければ幸いです。

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中野カウンセリングオフィス
東京都中野区にあるカウンセリングオフィスです。臨床心理士、公認心理師。著者の詳しいプロフィール、カウンセリングサービスについては下記サイトをご覧ください。